主に食糧や輸入制度(豚肉の差額関税制度)の問題点などについて解説しています。

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高まる米国畜産農家の不満とTAG


9月26日、米国ニューヨークにおいて開催された国連総会と同時に行われた米国トランプ大統領と安倍首相の日米首脳会談に関して、報道では日本産業界最大の懸念である自動車関税引き上げの先延ばしにとりあえず成功したと伝えられた。

加えて、同会談では当初から懸念されていた通り、トランプ大統領より当然のように日本に対して農畜産物の一層の輸入市場開放を求めて強い要求がなされ、首脳会談後に発表された日米共同声明では、“物品貿易協定(TAG)”という耳慣れない言葉が出てきた。

同日の記者会見で安倍首相は、「TAGとは物品貿易に関する交渉だ。これまで日本が結んできた包括的なFTAとは全く異なる」と述べた。 日本の主な報道機関はTAGとしているが、米国のロイターやAP通信など、ほとんどの報道機関は日米FTA(自由貿易協定)が開始されるとしており、事実上日本政府は米国との2国間FTA交渉に否応なしに引きずり込まれる事になったわけである。

 

また、日米首脳会談の翌27日には、米国食肉輸出連合会(USMEF)のダン・ホルストロム会長兼CEOが、以下の声明を発表し、今後の進展に期待をにじませた。
「日本は米国の牛肉と豚肉のリーディングマーケットであり、さらなる輸出拡大の余地は大きい。しかし、これが実現するためには、関税撤廃・軽減(tariff relief)は絶対に必要不可欠であり、それによって米国の赤身肉は主要な競合相手と同じレベルになる。 USMEFは、農業分野の市場アクセスが具体的に含められている日米貿易協定に関するオープンな交渉の約束によって、非常に勇気づけられているとともにこれらの交渉の急速な進展を期待している。」(筆者訳 下線筆者 tariff reliefのreliefには撤廃、除去、軽減などの意味がある)

これら一連の動きの背景には、もちろん昨年の牛肉SG発動や来年初に予定されているTPP11の発効によって米国産畜産物が日本において不利益を被るという状況もあるが、一方で米国の畜産物は、米国がしかけたとはいえ、対中国貿易戦争において、中国側から基本税率の12%関税に報復関税50%を上乗せした合計62%の高率関税をかけられるなど打撃を受けており、米国畜産農家の不満はたまっていくばかりという状況もある。

なお、TAGとは日米共同声明(英文)の3にあるUnited States–Japan Trade Agreement on goods(米国-日本物品貿易協定、下線筆者)の事であり、共同声明には「同時に他の重要な分野(サービスを含む)で早期に達成できるものについても交渉を開始する」と記載されていることから、これらはまさしく米国側が一貫して意図してきた日米FTAそのものだと筆者は確信しているのである。 

11月上旬に行われた米国の中間選挙(上院1/3と下院全員)への対策で民主党が下院の過半数を占めた事にトランプ大統領が、2年後の大統領選挙に向けて危機感を持ったに違いないと筆者は考える。そのため、是非とも畜産農家が多い中西部の支持が必要なトランプ政権が、これらの畜産農家の不満を減らすための対応として、これまで以上に日本に対して強烈な要求をしてくることも十分に考えられるのである。

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