主に食糧や輸入制度(豚肉の差額関税制度)の問題点などについて解説しています。

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イベリコ豚の基礎知識


イベリコ豚の規格・表示について

6月号で輸入冷凍豚肉の対日輸出国ランキングで近年異変が起きている原因としてスペイン産のイベリコ豚がその要因であると述べた。 繰り返すが2015年度から冷凍豚肉の輸入量で、スペインが米国を抜いてデンマークに次ぎ第2位となっており、2016年度の冷凍豚肉輸入量はデンマークに次いでスペイン産の冷凍豚肉輸入量が約9万トンと米国の約1.5倍の輸入量に急増している。高価格なイベリコ豚とのコンビネーションにより、スペインからの加工原料用の白豚の輸入が増えているのである。

今回はその主たる輸入増加の理由となっている高級豚肉であるイベリコ豚の特徴や国家規格(格付け)などについてレポートしてゆきたい。今後の国産銘柄豚のマーケッティングの参考にしていただければ幸甚である。

最近イベリコ豚やハンガリー産のマンガリッツァの存在がますます目につくようになってきた。これらの豚肉はまるで牛肉の様な赤い肉色にほど良くサシが入っており、その深みのある味わいと食感で我国でも多くのファンを獲得し、欧州産高級豚肉の定位置を確保しつつある感が強い。

元来イベリコ豚はドングリで飼育された豚として有名であった。 一方、マンガリッツァは知る人ぞ知るヨーロッパの高級豚肉であった。当時(2009年)はハンガリーの輸出企業であるPICK社が東京事務所を開設したばかりで、やっとマンガリッツァ豚が日本のフードサービス業界で徐々に知られるようになってはいたが、ハンガリーの“国宝豚”として現在のようにこれほど多くの飲食店でメニューに載るとは全く思いもよらなかった。

一方、イベリコ豚のブームは10年ほど前の2006年ころからで、マスコミがドングリを飼料として飼育した豚とワイドショーなどで何度も取り上げたため一気に知名度が上がり、イベリコ豚=ドングリ豚と思い込まれている方も多い。しかしながらドングリ飼育のイベリコ豚(ベジョータ)は生産量のせいぜい1割程度でしかないといわれており、実際にはドングリは与えずに穀類や豆類を与えて飼育したイベリコ豚(セボ)が主流を占めているのである。この辺りの状況は10年前も現在も、ほとんど変わっていない。

なお、イベリコ豚のスペイン政府の定める規格が2014年から若干変更されたので、イベリコ豚の新たな規格に関しては後述したい。イベリコ豚生ハム(ハモンイベリコ)の熟成期間が終了し、そろそろ新規格の表示に基づくものがマーケットに出回り始めているはずである。

ヨーロッパ原産高級銘柄豚肉について 
(スペイン・イベリア種:イベリコ豚、ハンガリー原種:マンガリッツア、フランス・ビゴール種:ノワール・ド・ビゴールなど)

欧州産品種の豚肉で有名なものとしては、我国でも一般的なデンマーク産ランドレース、英国産の大ヨークシャー、中ヨークシャー、バークシャー、スペイン原産のイベリコ、ハンガリー原産のマンガリッツア、 フランス原産のノワール・ド・ビゴール(“ビゴールの黒”と呼ばれ、生ハムが有名)などがある。なお、マンガリッアとノワール・ド・ビゴールは、イベリコに近い品種と言われている。ここでは先述の通りイベリコ豚について、2014年に政府認定規格がより厳格になったこともあり、特に取り上げて解説したい。

・スペイン:イベリコ豚 Cerdo Ibérico
ご存じスペイン原産の豚である。純血種のイベリコ豚は、四肢が黒くなる傾向があるため「パタネグラpata negra:黒足」との別名がある。イベリア半島西部の“西洋ヒイラギ樫やコルク樫の森”(Dehesaデエサ)で放牧されドングリ(Bellotaベジョータ)の実や牧草・木の根などを食べて育つのがイベリコ・デ・ベジョータ(ドングリ豚)である。毎日10~15㎏のドングリを食べると言われる。なお、西洋ヒイラギ樫のデエサで放牧されたイベリコが上質と言われている。

また一口にドングリといっても日本のブナやミズナラのものとは違いがあるため、単純に日本でドングリを飼料にして飼育しても良い結果を得るには十分な研究と経験が必要になることは当然であろう。なお、2014年9月から10月にかけて北海道オホーツク管内の公共牧場で肉牛と乳牛の合計15頭がドングリの食べ過ぎでタンニン由来のポリフェノールで中毒死(腎臓障害)したという報告もあり注意が必要である。

ところで、イベリコ豚は濃赤色の肉色があり、特にベジョータ(ドングリ豚)は、ドングリ由来のオレイン酸が豊富なため低い温度でも溶けやすいきめ細かな脂肪が特徴である。飼育期間は平均16カ月前後と長い。日本国内での流通価格は一般的な国産ポークより高く設定されているものの、その優れた食味から安定的に売れている様である。

イベリコ豚にはスペイン政府の認定規格があり、純血種(イベリコ・プーロ)とイベリコ種50%以上の交配種(主としてデュロック種との交配)が認定されているが、実際には交配種が多く流通している。政府認定規格には、月齢、体重、飼育方法やどんぐりを飼料として与えたかどうかで以下のように3種の表示が異なっているので注意していただきたい。イベリコ豚=どんぐり飼育豚ということではないのである。

(イベリコ豚の格付規格と表示)

・イベリコ・デ・ベジョータ Ibérico de Bellota(どんぐり放牧飼育):
イベリコ豚の中では最高品質の規格である。 ベジョータ(Bellota)とはドングリの事である。 12ヶ月齢程度のイベリコ豚(体重92~115kg程度)を10月1日から12月15日までに樫(西洋ヒイラギ樫やコルク樫)の林で放牧(モンタネーラMontaneraという)を開始し、どんぐりの期間10月~3月の60日以上の放牧で体重が最低46kg増加するまで肥育。 ALICの駐在員レポート(2,009年4月)によるとデエサの平均森林密度は成木が1ヘクタール当たり10本の割合となっており、放牧密度は1ヘクタール当たり2頭を超えてはならないとされている。

また、コルク樫1本には約25~30kgどんぐりの実ができるとされており、1ヘクタール10本の成木から250~300㎏のどんぐりが取れる。 とすると、イベリコ豚が1日最低10㎏のドングリを最低60日食べる条件で計算すると1頭あたり最低600㎏のドングリが取れる最低2ヘクタールの森が必要となる。従ってイベリコ・デ・ベジョータには相当広大な森が必要となる。また、地方によっては1ヘクタールにコルク樫は25~30本あるとのレポートもあり、その場合には、625㎏から900kgのドングリが取れるため同条件で計算すると1頭あたり0.67~1ヘクタールといずれにしても広大な森が必要である。

枝肉の最低重量は、交配種で115kg、純血種で108kg。最低月齢は14か月。 これらの基準を満たしたイベリコ豚には“Bellota”(ベジョータ)の表示がある。なお、ハモン・イベリコ(Jamón Ibérico生ハム)には規格を示す色別の品質表示タグが付いており、100%イベリコ純血種のベジョータには黒いタグ、交配種には赤いタグがついている。
なお、「パタネグラpata negra:黒足」の表示は、ベジョータ規格の100%純血種にのみ使用可能であり、「デエサDehesa:どんぐりの森」や「モンタネーラMontanera:放牧期間」の表示は、純血種でも交配種でもベジョータであれば可能となっている。

・イベリコ・デ・セボ・デ・カンポ Ibérico de Cebo de Campo(どんぐり・穀物放牧飼育):
ベジョータに次ぐ高品質の規格である。デエサ(ドングリの森)に放牧され、どんぐりなどの天然飼料とともに穀物が補完飼料として与えられ、屋外または部分的に屋根のついた農場(1頭あたり100平米以上)で肥育されたイベリコ豚。最低60日は屋外飼育され、枝肉の最低重量は交配種で115kg、純血種で108kg。最低月齢は12か月。生ハムには、緑色のタグが付いている。

・イベリコ・デ・セボ Ibérico de Cebo(穀物飼育):
イベリコ豚生産量の9割がこのセボと言われている。高品質ではあるが、放牧せずに農場(1頭あたり2平米以上)で穀類や豆類を中心とした穀物肥育されたイベリコ豚(ピエンソとも呼ばれる)。ドングリは飼料として与えられていない。枝肉の最低重量は交配種で115kg、純血種で108kg。最低月齢は10か月。生ハムには白いタグが付いている。

参考:スペイン産生ハムの加工条件と名称
ハモン(Jamón):豚のモモ肉の生ハム。乾燥熟成期間は以下の表のとおり。
パレタ(Paleta):豚の肩肉(ショルダー)の生ハム。乾燥熟成期間は表のとおり。
ロモ(lomo):豚のロースにスパイスを加え天然ケーシング(豚腸)に詰め、熟成された生ハム。乾燥熟成の期間はハモンやパレタより短く4か月程度。
ハモン(後脚)パレタ(前脚)
出典:独立行政法人農畜産業振興機構

デエサ(イベリコ豚放牧地)
デエサ(イベリコ豚放牧地)
出典:農畜産業振興機構
http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2009/apr/gravure03.htm

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