主に食糧や輸入制度(豚肉の差額関税制度)の問題点などについて解説しています。

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どうなる!?2019年の豚肉相場 中国のアフリカ豚コレラが原因で大荒れか?


2019年2月17日 ミートジャーナル3月号

どうなる!?2019年の豚肉相場
中国のアフリカ豚コレラが原因で大荒れの可能性あり!

我国でトンカツ、チャーシュー、焼肉、しゃぶしゃぶ、炒め物、ギョーザ、角煮、豚丼やハム、ベーコン、ソーセージなどに幅広く使われており、非常に重要な食肉である豚肉の相場が、豚の伝染病によって大きく影響を受ける可能性について、レポートしたい。

まず国内産豚肉の現在の状況であるが、昨年9月3日に26年ぶりに岐阜県で発生が確認され今年に入って未だ完全終息が見えない家畜伝染病である豚コレラの情報について解説したい。 豚コレラは、豚やイノシシ特有のウイルス性の伝染病で、感染すると高熱を発しほとんどの豚が死んでしまう事と、決め手になる治療法が無いため、養豚生産者にとっては、死活問題になる非常に恐ろしい家畜伝染病なのである。また、感染力も強く豚の唾液や糞尿にウイルスが排せつされ、感染した豚やイノシシ、そしてこれらに接触したヒトや飼料運搬車、野生動物その他ウイルス汚染物質から感染が拡大する。

一方、ヒトには感染しないため、感染した豚の肉を食べても全く問題はないが、豚コレラが発生した場合には養豚生産者の被害が非常に大きいため、各生産県では常に防疫対策に手を尽くしている。また、発生時の対応も徹底的である。 2010年に宮崎県で発生した口蹄疫同様に家畜伝染病予防法によって、発生が確認された生産者の豚は全て殺処分され、半径3キロ以内を移動制限区域、半径10キロ以内を搬出制限区域としている。

先述した様にこのウイルスは豚やイノシシへの感染力が強く、治療法もないため、陽性反応が出た養豚場の豚は、今回も未感染の豚も含めて全て殺処分され、感染が拡大しないように予防措置が行われている。しかしながら、本年2月5日に愛知県豊田市の養豚場で、豚コレラ陽性の患畜が発見され、この養豚場から感染確認前に三重県、長野県、滋賀県、大阪府に出荷された子豚千頭以上からも陽性反応がでたため、一気に豚コレラの汚染地域が拡大してしまったということである。なお、三重県に出荷された豚は幸いにも全て陰性であった事から三重県での感染は現在のところ確認されていない。

最初に患畜が発生した岐阜県では、12月25日より自衛隊に災害派遣を要請し1600人の自衛隊員の協力によって防疫処置として7500頭の殺処分を1月初旬までに実施、2月6日現在では愛知・岐阜県で約1万2千頭の豚の殺処分がされ、その後、愛知県の養豚場から子豚が出荷された大阪府や滋賀県、長野県の5府県合計で1万6千頭の豚が殺処分されたとの事である。また、2月13日には愛知県田原市の“養豚団地”でも新たな感染が確認され、愛知県は、翌14日に感染農場以外も含む養豚団地全ての豚1万4千頭の殺処分に踏み切ると発表した。このような事から豚コレラがいかに恐ろしい家畜伝染病であることがお分かりいただけよう。

こうした防疫措置によって、豚コレラの感染拡大が完全にストップすれば、日本の養豚頭数は約900万頭であるため、豚肉価格への大きな影響は、ほとのどないものと考えられる。しかしながら、万が一感染拡大阻止に失敗してパンデミック(豚コレラ蔓延)となった場合には、これから春先から夏場に向かって、暑さに弱い豚の出荷が減少し、ただでさえ豚肉価格が上昇するのだが、更に高騰する可能性がある事に十分な注意が必要である。

かつて宮崎の口蹄疫の場合にもあったのだが、今回も風評被害によって豚肉の消費が減少する可能性もあるため、読者の皆様方には、豚コレラはヒトには感染しないし、流通している豚肉は全て豚コレラには感染していない豚のものであり、100%安心して使用できる事を十分に理解して頂きたいのである。

次に現在日本で発生している豚コレラとは異なる家畜伝染病であるが、世界の豚肉需給に大きな影響が予想される中国のアフリカ豚コレラ(ASF)について述べたい。

お聞き及びの方もおられるかと思うが、世界一の豚肉大国である中国で最近アフリカ豚コレラが発生し、大きく感染地域が広がっているのである。中国のアフリカ豚コレラは2018年8月3日に中国東北部(旧満州)の遼寧省で初めて発生し、その後瞬く間に中国全土に広がり、2019年1月下旬で4 直轄市 19 省 2 区 121 ヶ所(110 農場、4 施設、6 村)と、未発生のところは公式的には河北省・山東省など6地域のみと、封じ込めに失敗し、まさにパンデミック状態となっている。(地図参照)

世界の半分の4億頭の豚が飼育されている中国だが、アフリカ豚コレラも治療法が無く、ひたすら殺処分によって封じ込めせざるを得ないのである。

地図 中国大陸のアフリカ豚コレラ発生状況 2019年2月15日現在 (丸印の6地域のみ未発生)

 

出典:中华人民共和国国家发展和改革委员会 生猪出厂价与玉米价格周报をグラフ化
変化率2018年1月第一週を100%として筆者が計算
図1をご覧いただきたい。アフリカ豚コレラが中国の豚肉価格にどのような影響を及ぼしているか述べる前に、2018年1月から2019年1月末までの中国の豚生体価格の推移を見てみよう。例年では春節(旧正月)がある2月前には価格が上昇しているのだが、しかしながら2018年は1月下旬から5月下旬に渡って春節(2月16日)があったにも関わらずに5月下旬まで4か月(16週間)にわたって右肩下がりに30%も価格が急落したのである。その原因は表1に示す通り屠畜頭数が大幅に増えたためである。

表1 中国の大規模パッカー(食肉処理企業)の肉豚屠畜頭数

出典:中国農業農村部 全国规模以上生猪定点屠宰企业屠宰量

その後、米中貿易戦争のために中国に輸入される米国産豚肉の関税が7月以降12%から37%(現行62%)に上昇したため輸入量が激減したため9月10月にかけて中国の国内豚肉供給量が減少し、相場は持ち直して急上昇したものの、10月以降はじり安の状態となり、2019年も1月中下旬から急落している。

昨年末から1月にかけて、一部のニュースや新聞によると、中国でのアフリカ豚コレラの感染拡大によって現地価格が高騰していると報道されてはいるが、実際には春節(2019年2月5日)に向けて上昇するはずの豚生体相場が図1で示した通り、落ち込んでいるのである。

その原因を筆者の知人(中国人)に電話で確認したところ、アフリカ豚コレラが発生した地域で、生産者の大きな損失となる殺処分リスクを避けるために、養豚生産者が母豚も含めて出荷を急いでおり、一時的に供給過多になっているためとの事であった。また、我国では信じられない事だが、風邪のような症状の豚がいた場合には、アフリカ豚コレラの検査前に農場の豚を全て出荷している生産者もいるとの事で、蔓延は止まらないのではないかという事であった。

この様なことで、中国において殺処分に加えて、肉豚の早期出荷と母豚の淘汰によって、仮にほんの5%の豚が減少した場合には、計算上日本の飼育頭数の2倍以上の2千万頭という膨大な頭数が減少するという事になるのである。

したがって、アフリカ豚コレラの風評被害に中国の消費者が影響されず、例年と同じレベルであれば、中国の欧米からの豚肉輸入量は現状の220万トン(2018年予測 枝肉換算)から大幅に増加して400~500万トンとなる可能性がある。その場合には、将来的に欧米産豚肉の国際価格は中国人が好むバラ肉を中心に全体として大きく上昇する事が考えられるためこうした状況にも目を向けておくことが必要であろう。(ちなみに日本の輸入量は約150万トン2018年予測 枝肉換算) 

なお、昨今、中国人観光客が我国に違法に持ち込む中国産ソーセージなどの豚肉加工品からアフリカ豚コレラウイルスが検出されているため心配される方も多いのではないかと思う。我国の検疫当局には、アフリカ豚コレラが万が一でも持ち込まれない様に強くお願いしたい。

中国産の加熱調理されたトンカツやソーセージなど豚肉加工品は、我国の外食チェーンなどで広く利用されているが、先述したようにアフリカ豚コレラは人には全く感染しないし、十分に加熱され我国の動物検疫の許可を受けて輸入されているものは、ウイルスが死滅しているためご安心願いたい。

また、現状では感染を恐れた中国養豚場では出荷を急いでいるため、今のところ豚肉の現地価格は上がってはいないが、このような動きの結果、将来的には豚の肥育頭数が減少する事によって、現地豚肉価格は反転して上昇することが予想できるのである。 そうなれば、当然の事ながら中国産豚肉加工品の価格も値上がりするという事になるだろう。

いずれにしても、豚肉の需給は国内的にも国際的にもこのような家畜伝染病によって影響を受け、大きく変動する事が予想されるため、筆者としては今後とも、いろいろな状況を分析しながら更にレポートして行きたいと考えている。

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