主に食糧や輸入制度(豚肉の差額関税制度)の問題点などについて解説しています。

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日本の食肉需給に悪影響‐ブラジル産鶏肉の食肉不正問題


皆様各種報道などでご存知の通り、ブラジル政府の3月20日発表によると、同国内における食肉処理検査において数々の不正がありブラジル連邦警察(MAPA)が食肉加工企業21社に衛生基準を満たしていない不正な鶏肉・鶏肉製品を販売した疑いで3月17日に一斉捜査を行い30名以上の身柄を拘束したとのことであった。

ブラジル農業畜産省(MAPA)によると、食肉業界の不正摘発「カルネ・フラッカ作戦」によって捜査された企業の中には、世界的な大手食肉企業のブラジルフーズ社(BRF S/A )やJBSグループのセアラ社(SEARA ALIMENTOS LTD)を含む食肉加工業者21社が、検査逃れのため食肉検査官などに賄賂を支払い、衛生基準を満たさない鶏肉やその加工品を大量に出荷していたというものであった。

図 2015年ブロイラー輸入量(単位 トン)
出典:財務省貿易統計データを筆者がグラフ化

これを受けて、欧米各国や中国などアジア各国はブラジルからの鶏肉に加えて牛肉など他の食肉や食肉製品の輸入を3月21日より停止しているが、香港など一部の国では安全性が確認されたとして3月末より徐々に再開し始めているという状況である。

日本においては、厚生労働省は3月22日に強制捜査の対象となった食肉21企業からの輸入をブラジル当局から業者の改善報告があるまで検疫を停止した上で、国内の輸入企業を通じて流通状況の確認作業を進めた。直近の厚労省のプレス発表によると、21社のうち日本の輸入実績があったのは2社で、1社から平成27年度に約8,900トン、28年度に8,700トンの鶏肉が日本に輸入され、国内では364トンの在庫が確認されたとのことである。他の1社から、ハチミツやプロポリスなどが輸入されていた。
 
日本は年間55万トン余りの輸入冷凍鶏肉のうち、約8割をブラジルに依存しているため関心は非常に高く、筆者にも、テレビ朝日や日本テレビなどの報道番組よりインタビューの依頼があった。 マスコミが筆者に聞きたかったことは、今回の鶏肉不正問題が今後日本の消費への影響や価格の動向であったが、これらについて筆者が述べたのは、以下の通りであった。
① 「ブラジル産鶏肉に対する日本の消費者の不安感から国産鶏肉志向が強まることから、輸入鶏肉ユーザーである外食企業や食品加工メーカーからの国産需要が高まり、一時的に国産鶏肉価格が上昇する可能性がある」
② 「ただし問題が長期化すると鶏肉そのものへの消費者の不安感から国産輸入に限らず鶏肉全体への需要が減少する可能性もある。」
③ 「大きな問題としては、ブラジルの食肉全体への信頼度や検査体制が疑問視された場合には、鶏肉に限らず他の食肉も輸入停止とされることになる。」
④ 「日本の鶏肉の生産量は150万トンあり、国内での鶏肉はチルド流通が主流である。鶏肉は鮮度落ちが早いため、輸入の鶏肉は小売店頭ではほとんど見かけない。スーパーなどで販売される鶏肉は鮮度が良い安全安心の日本産である。」
⑤ 「輸入冷凍鶏肉は、主として一部の外食や加工メーカーで使われているが今後は国産志向が高まると考えられる。」
⑥ ブラジル産の鶏肉が輸入の8割を占めているのは、北半球の渡り鳥が飛来しない南半球には鳥インフルエンザが発生しないため検疫上の問題がなく、加えて飼料穀物が低コストであることが基本的な理由である。

今回の不正問題では、鶏肉に限らずすでに牛肉や豚肉、ソーセージなどのブラジル産食肉・食肉加工食品全体の輸出に大きな影響がでており、国際的にも大打撃となっている。しかしながら、3月末から4月にかけて徐々にブラジル産食肉や製品の輸入を再開する国が出てきはじめて、事態は沈静化の方向に向かっているという状況である。この問題が今後食肉の国際価格にどのような影響を及ぼすのか今後も注意して見てゆきたいと考えている。

なお、輸入鶏肉の不正問題が国産豚肉の相場にどのように影響するか気になる読者もおられるかもしれない。それに対する筆者の予測としては、「輸入冷凍鶏肉の不正問題は豚肉の需要をやや増加させる可能性があり、国産豚肉価格にはやや追い風になるであろうと考えている。」

さて、このブラジル問題が発生したため、今月号では急きょ鶏肉のレポートを前段にもってきた訳だが、次に大いに気になるTPP漂流以降の自由貿易交渉の動きについて考察してみたい。なぜならFTA(自由貿易協定)の動きは、国や業界の将来に多大な影響を与えることになることから、こちらの動きから目を離せないからである。筆者は、FTAやEPA(経済連携)に関して4月・5月に大きな動きが出て来るのではないかとの見方をしている。

その理由としては、日米2国間協議に関しては、トランプ大統領から通商代表部(USTR)代表に指名されたロバート・ライトハイザー氏が3月14日の上院財政委員会の公聴会で「米国産農産物の輸出増加のための、第一のターゲットは日本である」「2国間貿易交渉によってTPPで交渉された内容を改善したい」と語り、日本の農産物市場の開放を更に迫る考えを明らかにした事が考えられる。

やっとの思いで年月をかけて合意に達したTPPの成果は米国の離脱によって漂流し、今年の夏にはハードルの高い日米FTA(二国間交渉)が、我国の生産者にとってTPP以上に厳しいものになる可能性がある。筆者が見るところ日米2国間協議が相当厳しい内容になる可能性があるため、以下のような他の貿易協定を進捗させることによって、米国に対してけん制することを目指しているのではないかと考えられる。

日EU経済連携協定に関しては、米国がTPPから離脱したことを受け、TPPに代わる成長戦略として日本政府はEUとのEPA締結を急いでいるともいわれており、3月19日には安倍首相が訪問先のドイツ・ハノーバーで、メルケル首相に対し自由貿易の重要性に触れEUとのEPA(経済連携協定)の早期締結を話題にしたとのことである。しかしながら、こちらも我国が希望するような早期締結は容易ではないと考える。

また、TPPに関しては、日本政府が3月31日TPPを米国抜きで発効させる方策の検討に入ったことが新聞報道で伝えられている。参加各国と別途議定書を結び、合意した国にのみTPP合意内容を適用する案が浮上しているとのことであり、5月20日にベトナムのハノイで開催されるAPEC貿易大臣会合に合わせて開催されるTPP閣僚会合の共同声明に有志国だけでの発効方針を明記することも視野に、参加国と調整を進めていると伝えられている。それと同時に中国・韓国なども参加するアジア巨大経済圏を包含するRECP(東アジア地域包括的経済連携)の存在が大きく浮上して来ている。
今後の動きに関してさらにレポートしてゆきたい。

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