主に食糧や輸入制度(豚肉の差額関税制度)の問題点などについて解説しています。

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TPP-ついに視界ゼロ 吹き荒れるトランプ台風!日米2国間協議に移行も?


読者の皆様もすでにご承知の通り、去る1月20日に新アメリカ大統領の就任式が、首都ワシントンDCで取り行われドナルド・トランプ氏が正式に大統領となった。TVのニュースなどでも大々的に報道されたので、我国でも多くの方がご覧になったはずである。その3日後の23日には、得意満面でテレビカメラの前で最初の大統領令にサインしてみせるパフォーマンスを演じたのだが、それが選挙戦中に繰り返していたTPPからの永久離脱をUSTR(米国通商代表部)に命令するものであった。

その後、1月30日には我国の管官房長官は記者会見において「本日、米国通商代表部から『米国はTPPの締結国となる意思がない』旨の通知があったと承知しています。トランプ大統領も自由で公正な貿易の重要性について認識していると考えています」と述べ自由貿易体制こそが世界の経済成長の源泉であり、安倍内閣の重要政策であるとの日本の立場を改めて強調した。

加えて「TPPの戦略的意義について腰を据えて米国側に理解を求める」との事で、2月10日の安倍総理とトランプ大統領との日米首脳会談でTPPを含む自由貿易の意義を直接訴える考えであると言明した。なお、この首脳会談には甘利元TPP担当相と岸田外務大臣も同席して環太平洋地域に加え、世界経済に対するTPPの意義と米国の重要性を説きたい考えである。

このトランプ大統領のTPP離脱大統領令署名の儀式から1月30日にUSTRから各国宛ての離脱通知など一連の報道を見て、現時点でTPPの目が無くなったとホッと胸をなでおろした読者もおられるかもしれないが、筆者は逆に大きな不安感を抱かざるを得なかったのである。

なぜならば、トランプ大統領の一連の発言を考察すると「アメリカは今迄、世界中の多くの国々に対して自国を犠牲にしてまでその富と国力をつぎ込んで来た。具体的には、安全保障費用負担、貿易赤字、流入する移民の雇用増、白人雇用の減少等々であったが、今はそれらをストップし、逆に今までの貸しを返してもらおう」すなわち“アメリカファースト”(米国を再び偉大に!)を強く主張している事から、TPPに代わるアメリカに有利な2国間の貿易協定を結ぼうという強い意志を筆者は感じざるをえなかったからである。

去る1月17日スイスで開催された世界の政財界トップが集まるダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に初めて参加した中国の習近平国家主席が基調講演で「現在、世界的に直面している不確実性に多くの人が困惑している」、「世界を取り巻く多くの問題は、決して経済のグローバル化がもたらしたものではない」と述べた事にも、これまでは“グローバル化に程遠いあの中国が…!”そこまで言うかと筆者は驚いた。 トランプ大統領が何度も声高に主張している“アメリカファースト”すなわち反グローバリズムの動きを習近平が牽制した事にも中国の危機感が表れているのが見て取れるのである。繰り返すがあのグローバリズムと程遠いと思われている中国でさえこの様な主張をしているのである。

さて、現実として米国がTPPを撤退してしまったが、これからはどの様な動きになるのであろうか? 今のところ、まったく予断をゆるさない。トランプ政権が今後どの様な動きを見せるか非常に不確定要素が多いが、アメリカファーストの主張からすると筆者の予想は次の通りである。

  • TPPの大筋合意をベースに日米2国間のEPA(経済連携)交渉の可能性は?
    この場合には、安全保障(在日米軍費用負担増)、自動車(日本車への増税)などを人質にして、米国が最も競争力がある農畜産物(牛肉・豚肉・コメなど穀物)の日本の関税のさらなる引き下げと輸入増などの要求が激化する可能性が非常に高いと思われる。トランプ大統領の対日批判を考えると安倍総理との2月10日の会談で、早々に要求される可能性があると考える。
  • TPP大筋合意各国との間で、米国抜きの新TPP交渉の可能性は?
    米国抜き新TPPの可能性はTPP参加国11か国全ての参加は厳しいかもしれないが、有りうると考える。なぜなら我国は米国の脱退がほぼ決定した後でもTPP幹事国のNZに批准書を提出し他の参加国の前進を促したためである。また我国がトランプ政権に対して、何度もTPPへの再参加を促しているのは、うがった見方をすれば、「何度も誘ったが結局、米国は翻意しない。それゆえ致し方無く米国抜きのTPPとして進めざるを得なかった」と米国側に理解と寛容を求める必要があるのではないかと疑っているわけである。
  • 米国・英国・豪州・NZ・カナダなどとの先進国EPAに加えて別個にアセアン諸国とのEPAの可能性は?
    この先進国EPA策は、ある経済専門家の考えではあるが、成長著しいアジア市場が入っていないため別個にアセアンEPAや上述の米国抜きTPPが必要になると考えられる。 しかし、動きがあったとしても相当時間がかかるのではないだろうか。

トランプ次期大統領は、その選挙期間中の過激な発言に関して、少しずつ軌道修正をしては来てはいるが、このTPPが息を吹き返す可能性は極めて考えにくい。2月10日には安倍総理とトランプ大統領の会談が行われるが、その時には我国はかなり厳しい対応を迫られる可能性が大きいと考えている。 これまでTPP妥結・発効に強い警戒心と不安を抱いていた我国の農畜産業界は、米国不参加で急転した事態に安心すること無く、一層の生産性改善と輸出の向上に更なる努力が必要であると痛感する次第である。

筆者としては、いうなればTPPの檻に押し込められていたジャイアントが檻を壊して出て来た今、願わくは巨大な力で大暴れない事を祈っている次第である。安倍総理の頑張りに大いに期待したい。

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