主に食糧や輸入制度(豚肉の差額関税制度)の問題点などについて解説しています。

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“日欧経済連携(EPA)交渉妥結 ヨーロッパ各国の輸入豚肉の概況と特徴


 2018年2月2日 
“日欧経済連携(EPA)交渉妥結
ヨーロッパ各国の輸入豚肉の概況と特徴

最初はTPP11の話題である。本音なのか、いつもの気まぐれなのか分からないが、去る1月26日にスイスのダボスで開催された2018世界経済フォーラム(ダボス会議)で、米国のトランプ大統領がTPPへの復帰を検討すると突如表明した。もし、米国が本当にTPPに復帰するのであれば、21世紀型の新しい自由貿易体制の確立に更に弾みがつくのは間違いない。しかしながら、日本政府はトランプ大統領の演説を歓迎はしたが、目下のところは、既に合意されたTPP11(米国抜き)を淡々と予定通り進めていくことに変わりはない。 

安倍首相は1月29日の衆院予算委員会で、トランプ大統領のTPP復帰を検討するとの表明に対して「歓迎したい」とは述べたものの、米国再加入を前提とした協定内容の見直しについては否定的で「あれ(TPP11)がベストだと考えており、変えることは極めて難しい」と強調した。 気まぐれトランプ風が、今後どちらに吹くのか目を離せないのである。

いずれにしても、本年3月8日には南米のチリでPP11の署名式典が開催される予定であり、その後は参加各国が議会で批准を行う事になる。 参加11か国の内で6か国が国内手続きを終えた時から60日後に正式名称「包括的および先進的TPP」(CPTPP)いわゆるTPP11が発効するわけである。

参加6か国がいつ国内手続きを終わらせるかは、現時点では分からないが、少なくとも2019年初までには発効するのではないかと筆者は考えている。なお、TPP11については、本誌2017年12月号に詳細をレポートしたので是非お読み頂きたい。

さて、TPP11の話題はこのくらいにして、本号では我国の豚肉の輸入量の3分の1を占めるEU各国からの輸入豚肉の概況と特徴について、日欧EPAの影響も含めて解説してゆきたい。

2017年12月8日、日欧EPA交渉が“妥結”し、順調に行けば2019年初には発効するとの発表がなされた。日欧EPAの内容については本誌2017年8月号に解説しているので、是非ご一読いただきたい。

なお、「大枠合意」「交渉妥結」「大筋合意」と出てきて分かりにくいのだが、筆者なりに説明すると、次の通りである。

「大枠合意」: EPA27分野のうち中核部分である貿易・関税などの協議が決着したということであり、隔たりが大きいISDS条項(投資家と国家の紛争解決条項)など一部の交渉は、先送り。
「交渉妥結」:隔たりの大きかった条項をEPA交渉から切り離すことを合意し、それ以外の交渉全体が妥結したということ。妥結した条項を批准すれば日欧EPAが発効する。
「大筋合意」:EPA交渉全てが合意に達したということ。 参加各国の国会による批准によってEPAが発効する状態。

我国の豚肉の輸入は長年の間、米国、カナダ、デンマークの3か国がTOP3を占めてきた。しかし、近年冷凍豚肉においては対日輸出国ランキングでかなりの異変が起きている。 すなわち2015年度から冷凍豚肉の輸入量で、スペインが米国とメキシコを抜いてデンマークに次ぎ第2位となっており、2016年度の冷凍豚肉輸入量は51万3千トンの内、デンマーク約11万7千トン、スペイン約9万トン、メキシコ6万7千トン、米国は約6万2千トンとなっているのである。(但しチルドポークを合わせた輸入量は米国産豚肉が27万トンと、依然として米国が最大の輸入先となっている。)なお、ヨーロッパからの船積み期間は長いためほぼ全量が冷凍物であり、チルド(冷蔵)豚肉の輸入は全輸入量36万4千トンの内、たったの48トンと非常に少ない。

出典: 財務省貿易統計を筆者がグラフ化

 

ところで、なぜ近年スペインからの冷凍豚肉の輸入がこのように増加しているのであろうか? 実のところスペインからの、増加している輸入量の大部分はロースハム・ベーコン・ソーセージなどの加工原料用豚肉(三元交配種白豚)なのである。 イベリコ豚は、日本独特の節税輸入方法のコンビネーション輸入(コンビ輸入)の相方に使われているのである。 従ってイベリコ豚の輸入は、増加しているとは言うもののまだまだ量的にはあまり大きくないという状況なのである。

コンビ輸入については、ご存知の方も多いと思うが簡単に言うと、我国独自の輸入豚肉課税方式である差額関税の最も関税の低くなる分岐点価格(524円)になるように、ひき肉やモモなの加工原料用の冷凍豚肉をイベリコなど価格の高い豚肉と抱き合わせにして平均単価で輸入する節税輸入方法で実際上の関税は22.53円/kgとなる。

ご承知の通りヨーロッパ産の高級豚肉は高価格であるにも関わらずコンビ輸入の関税は、22.53円(例えば1,000円の価格の豚肉では約2.3%の関税率)であるため輸入コストが安くなるとともに、ハム・ソーセージや食品・惣菜メーカーが欲しい加工原料用のスペイン産冷凍豚肉(白豚)の輸入量も過去5~6年間で3~4倍と大幅に増加しているという状況になっているのである。

コンビ輸入は過去には「ヒレなどの高級部位の在庫が過剰になり輸入が抑制される効果がある」と誤解されたこともあったが、現在ではご覧の通りに我国の銘柄豚と競合する欧州の高級ポークの低率関税輸入を促進するとともに加工原料用冷凍豚肉の輸入も増加させる効果があり、その傾向はますます強くなると考えられる。

なお、将来日欧EPAが発効するとTPP11同様にコンビ関税は現行の約半分である11.53円/kgとなり、EPA発効後10年目には、外食業界で使用することが多い高級豚肉やヒレ・ロースなどはほとんどが無税となる。

また、イベリコ豚に匹敵するといわれるハンガリーの銘柄豚マンガリッツァをコンビ輸入の相方としたハンガリー産冷凍豚肉の輸入も、急速に増加しており、2016年度にはドイツやフランスなど伝統的な豚肉生産国より多く輸入され、日本の輸入量の第8位となっている。

現在、日本の主なヨーロッパ産冷凍豚肉の輸入先国としては、先述の通りデンマークとスペインで40%を占めているがその他の対日輸出国としては、オランダ、ハンガリー、ドイツ、フランス、イタリアの順になっており、意外にも日本の黒豚の原種であるBerkshire(バークシャー)や三元交配豚の原種の一つであるLarge White(大ヨークシャー)の原産国である英国からの輸入は少ないのである。

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さて、ヨーロッパではイベリコやマンガリッツァ以外にも銘柄豚があるが、ここからはそれらについて簡単に述べてゆきたい。ヨーロッパの銘柄豚として有名なものは様々あるが、今回は日本に輸入されている銘柄豚肉の内、今回はマンガリッツァMangalica、ビゴールPorc Noir de Bigorre、バスクPorc Basqueについて解説しよう。なお、イベリコCerdo Ibérico、については本誌7月号で紹介したので併せて参考にしていただきたい。

特にマンガリッツァは最近しばしば日本のマスコミに取り上げられるなど、マーケッティングに成功しており、加えて上述のように特にコンビ輸入によってキロ当たり、たったの22.53円と非常に低い関税で輸入が可能であるため今後さらに生産量の拡大とともに輸入が増大する可能性が十分あると考えている。

マンガリッツァMangalica 原産国:ハンガリー
ハンガリー固有の、全身が羊のような毛で覆われた希少種の豚である。脂肪が多く生産性の悪さから1991年には198頭まで激減し絶滅の危機を迎えたが、2004年にはハンガリーの国宝に指定されるなど国を挙げての保護によって飼養頭数は回復し、2013年の資料によると母豚7,000頭で6万頭の肉豚を生産しているとの事である。基本的には放牧され、トウモロコシ、小麦など雑穀、カボチャ、ビーツ(テンサイ)ドングリなどの野菜や木の実などの飼料によって13–14 か月(生体で180–200 kg)肥育される。肉色は濃く、牛肉に近い色である。脂肪が厚く、サシが入りやすい。国の発行する血統書によって管理されている。日本には2009年から本格的に輸入されるようになり、多くのホテル・レストランで使われるようになってきた。

写真:マンガリッツァ 出典 © Nienetwiler 2010

ビゴール豚Noir de Bigorre 原産国:フランス
フランスの南西部スペインとの国境にあるピレネー山麓ビゴール地方で飼育されるフランス原産の黒豚である。1970年代から80年代にかけては、生産性が悪く、脂肪が多く歩留まりが悪いことなどから飼育農家が減少し、絶滅しかけ純血種は81年には34頭の母豚と2頭のオスのみとなった。 その後、一部の生産者の努力によって、現在では年間5,500頭以上生産されるようになった。 一説によるとピレネー山脈にいた原種豚が、北側のフランス側で飼育されビゴール豚やバスク豚となり、南麓のスペインで飼育されているのがイベリコ豚となったと言われる。 1ヘクタールに25頭以下という飼育数で放牧され、飼料は、ライ麦、大麦などの穀物や樫やナラなどのドングリや栗などの木の実や牧草・木の根などである。一般的な白豚(LWD)に比べ増体が遅く(450g/日)、飼育期間も12か月と長い。肉質の特徴としては、歩留まりが悪く(脂肪が多い)、肉色が濃いなどイベリコと似ている。

ビゴール豚 出典© Roland Darré — Photographié par l’auteur 2009

バスク豚Porc Basque 原産国:フランス
大西洋に面しピレネー山脈を挟みフランス南西部からスペイン北東部の国境地帯がバスク地方である。バスク豚は、フランスのバスク地方(標高800m程度)の高原の銘柄豚で、屋外で生まれ、生後2ヶ月は母乳飼育、その後12~14ヶ月までは穀物のほか、どんぐりや、ぶなの実、栗、植物の根などを飼料として放し飼いされる。 生産量は年間2000頭と非常に少ないが、フランスの美食家の間では有名な銘柄豚である。日本でも少量輸入されている。

バスク豚 出典:©Eponimm, Pie noir du Pays basque – Salon de l’agriculture 2010

今回取り上げた銘柄豚肉以外にも様々な豚がヨーロッパで飼育されていると思うが、これらの高級銘柄豚は日欧EPAによって、さらに関税が下がり日本に多く輸入されるようになるのは間違いないと筆者は予想している。我国の消費者が抱く欧州産食肉のイメージは非常に良く、現在は地理的な要因から冷凍豚肉しか輸入されていないことを割り引いても、我国の養豚産業、特に銘柄豚生産者には将来的には脅威となる可能性があると筆者は考えている。

 

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