主に食糧や輸入制度(豚肉の差額関税制度)の問題点などについて解説しています。

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日米通商協議:豚肉に関する問題の考察(1)USTRが日本を貿易歪曲的と強く非難


第一部 日本が密かに守ってきた不公正な非関税障壁「豚肉差額関税制度」をホワイトハウスが強く非難

畜産関連業界に限らす、我国にとって、将来の命運に少なからず影響をもっているのが日米2国間貿易交渉であることは間違い無いはずだ。そこで、近づきつつある日米貿易交渉を控えた3月下旬に米ホワイトハウスが、特に日本の豚肉差額関税制度と牛肉セーフガード(SG)を強く非難したことから述べたい。

去る3月19日、米国トランプ大統領が米国議会に対して、2019年大統領経済報告を提出し、日本やEUなどに対し、物品に限らず、サービスを含む幅広い分野を対象とする自由貿易協定(FTA)の締結を目指す方針を示した。その中で農業分野においては日本の牛肉と豚肉市場の閉鎖性を批判し、今後始まる二国間貿易協定交渉に厳しい姿勢で臨む考えをはっきりと示した。

2019年大統領経済報告書(2019年3月19日)

特に豚肉や牛肉など日本の畜産物輸入に関しては、以下のように述べている。

***引用***
For example, in agriculture, Japan imposes a variable system of tariffs on pork imports, with rates as high as $2.18 per pound; for beef, Japanese tariffs range from 38.5 to 50 percent. A number of international competitors, such as Australia, face much lower Japanese tariffs, so a free trade agreement with Japan could level the playing field for U.S. exporters. (506 page)

(筆者訳)
例えば、農業では、日本は豚肉輸入に可変関税制度を賦課しており、1ポンド当たり2.18ドル(筆者注:為替レート109円で524円/kg)の高率である。 (米国産)牛肉については、日本の関税は38.5から50%の範囲であり、 オーストラリアなど多くの国際競争相手には、日本の関税は、はるかに低い、従って日本との自由貿易協定によって、米国の輸出業者にとって公平な競争ができるようになるのである。
***

この大統領経済報告書では、我国の農水省が通常の関税である“従量税”と説明している豚肉の差額関税制度をWTO条約が禁止している可変関税制度(可変課徴金制度)と断定するとともに高率の関税であるとし、米国産牛肉に関してはオーストラリアなど他の国の関税ははるかに低く不公正であると述べ、自由貿易協定(FTA)で米国に対する不平等を無くす必要があると主張しているのである。

USTR2019貿易障壁年次報告書(3月29日)

また、大統領経済報告書の発表から10日後の3月29日には、強硬派で知られるライトハイザー通商代表が率いるUSTR(米国通商代表部)から2019貿易障壁年次報告書が米議会に提出された。

この貿易障壁年次報告書は,「1)不公正貿易国とその行為の特定し、2)さらに二国間交渉をする。3)交渉が妥結を見ない場合には、通商法スーパー301条を基に相手国への制裁措置の準備を行う」これらのための前段階として米国議会に提出されるものである。

その後、もし交渉がアメリカの望む通りに進まない場合には、スーパー301条が発動され、日本に対しては我国からの対米輸出が多い自動車や鉄鋼、電子部品などの米国の輸入関税が大幅に引き上げられる恐れがあるのは否定できない。万が一そのような事態に陥ったら、日本全体の景気が大幅に落ち込むはずである。なお、2017年8月から続いている米中貿易戦争はこのスーパー301条が基になっているのである。

この貿易障壁年次報告書の内容について筆者の翻訳は以下の通りである。

***引用***
Nontariff Barriers

Pork Import Regime
U.S. pork exports to Japan are subject to a trade-distorting “gate price mechanism” that functions in a manner similar to a variable levy. In order to prevent lower-priced imports from competing with Japanese pork, the mechanism levies progressively higher duties on lower-priced imports. For instance, chilled and frozen pork are subject to a specific duty of up to 482 yen/kg (approximately $4.30/kg) based on the difference between the actual import value and a government-established reference price. This duty is in addition to a 4.3 percent ad valorem duty that is charged on all chilled and frozen pork regardless of import value. (281page)

(筆者訳)
非関税障壁
-中略- (コメ・小麦などの記述が続く)
豚肉の輸入制度
日本に輸出される米国産豚肉は、可変課徴金と同様な方法で機能する貿易歪曲的な「差額関税制度」にさらされている。低価格の輸入品が日本国産の豚肉と競合するのを防ぐために、このメカニズムは低価格の輸入に対して次第に高くなる関税を賦課している。 例えば、冷蔵豚肉および冷凍豚肉には、実際の輸入額と政府が設定した行政価格との差に基づいて、最大482円/ kg(約4.30ドル/ kg)の従量税がかかる。 この関税は輸入価格に関係なくすべての冷蔵豚肉と冷凍豚肉に課される4.3%の従価税に上乗せされるものである。
*****

このなかで筆者が最も注意して読んだのは次の下線部分である。
表題の項目であるNontariff Barriers(非関税障壁)
「trade-distorting “gate price mechanism” that functions in a manner similar to a variable levy.」「訳:可変輸入課徴金と同様な方法で機能する貿易歪曲的な「差額関税制度」にさらされる」という部分である。

難しい通商用語が出てきて大変恐縮だが、variable levy「可変輸入課徴金」とはWTO条約の中で禁止された非関税障壁であり、以下に示すWTO条約農業協定4条2項によれば、“維持したり、とり又は再びとってはいけない制度”である。すなわち、USTRはウルグアイラウンドで我国が一旦は廃止した「差額関税制度が復活してWTOで禁止された可変輸入課徴金と同様な機能を持ち貿易を歪めている非関税障壁になっている」と強硬に主張しているのである。すなわち、USTRは我国がWTO条約に違反している不公正な国であるという交渉上の武器を手中にしているのである。

***WTO条約農業協定4条2項***(外務省ホームページより引用)
「通常の関税(従量税や従価税など)に転換することが要求された措置その他これに類するいかなる措置(注)も維持し、とり又は再びとってはならない。 注: これらの措置には、輸入数量制限、可変輸入課徴金、最低輸入価格、裁量的輸入許可、国家貿易企業を通じて維持される非関税措置」
( )内筆者。
*** ***

***従量税と差額関税の違い***
WTO条約で認められている通常の関税である従量税とは、輸入貨物の重量や体積、容量に対し、一定の金額で課す関税で、例えば1キロ当たり125円とか1リットル当たり100円とか一定の金額が決まっている関税の事である。従量税125円の場合、1キロの豚肉の関税は125円、10トンの場合は125万円と決まっている。しかしながら差額関税制度の場合には豚肉1キロ当たり22.53円から482円まで関税額が大きく変化しており、10トンの場合は225,300円から482万円まで関税額が変化し一定ではない。その点を米国は差額関税が可変課徴金(Variable levy)であり、従量税では無い非関税障壁であるとして、日本の豚肉差額関税制度は貿易歪曲的であり、WTO条約違反であると批判しているのである。なお、日本の農水省は、差額関税を通常の関税である従量税であるとしている。
***

図1はUSTRが貿易歪曲であるとしている差額関税制度をUSTRの説明のまま作図したものである。図2はWTO条約に違反する可変輸入課徴金であるとして、ウルグアイラウンド交渉妥結後に廃止された日本の旧差額関税制度である。現行の数値で作図したところ、USTRが貿易障壁年次報告書で説明している差額関税制度(図1)とぴったり重なり、UR当時の複数の農水省幹部が説明していた通り、主要な機能すなわち可変課徴金として作用する部分は全く同じになった。 

筆者は過去に何度も、差額関税制度は生産者のためにも消費者のためにも食肉業界のためにもならない上に、常に自由貿易を標榜し公正な貿易によって利益を得ている我国が、長年密かに固守してきた不公正な制度であり、「早急に公正な通常の関税である従量税または従価税に転換すべきである」と強く主張して来たのであるが、ここまで来れば非常に残念ながら我国が自ら「通常の関税に是正するには、時すでに遅し」の感がある。そして、いよいよこの問題に米国が乗り出して来たという事実は、我国にとって大変厳しい対応を迫られると考えているのである。

第2部に続く

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