主に食糧や輸入制度(豚肉の差額関税制度)の問題点などについて解説しています。

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豚肉相場の動向考察


今回は、最近の豚肉相場の動向について解説して行きたい。まずは最近の相場の動きを説明するために図1をご覧いただきたい。 これは、以前も相場の動きを説明する時につかったが、過去13年間の国産豚肉生産量と枝肉相場の推移を示した図である。 図を見ると生産量と相場にはっきりと関連があることが見て取れよう。 すなわち生産量が増加すると相場は下落し、生産量が減少すると相場が上昇している。 6ヶ月の移動平均(6区間移動平均)にもこれらの生産量と枝肉相場の関係が良く表れているのはご覧の通り一目瞭然である。

例年、生産量が減少し始める6月ころに毎年相場がピークを付け、その後秋口から相場が下落、12月には持ち直すものの1月にはまた下落する。 例年ほぼ同じパターンの繰り返しとなっているのだが、平成26年から27年夏までの枝肉相場の動きは例年とは異なっていた。 国産枝肉は、同6月に相場のピークをつけた後、例年通りに秋口から下がりはじめたが、12月の年末需要期には、東京市場で上物が700円を超える大相場となり、その後は急 降下などもあったが、再度700円を超える水準まで急反発したり、600円を挟んで上下したりしたものの、昨年8月までは概ね高値圏で推移した。 

その後、例年通りに昨年の秋口から本年3月までは12月に一時的に価格を500円台に戻したものの400円台で推移していた。そして6月にピークの638円を付けた後に7月は557円(昨年同月比86.2%)、8月は501円(昨年同月比78.9%)と高値で推移した一昨年、昨年と比較して相場の上昇力は弱くなりつつあるように見える。とはいうものの国産牛肉の高値が続いていることに加えて、昨今の肉ブームによって豚肉消費が好調であり、5年前のような400円台を割り込んで300円台の相場に低迷するような事は無いであろうと思われる。

図1 国産豚肉生産量と枝肉相場の推移
(添付エクセルファイル 図1 国産豚肉生産量と枝肉相場の推移)
出典: (独)農畜産業振興機構データをもとに筆者が作成

次の図2は豚肉の輸入量と国産相場の関係を示したものだが、以前にも指摘した通りほとんどが加工原料に向けられる冷凍豚肉の輸入量と国産相場には、ほとんど関連が見られない。むしろ平成13年度から4連続発生したSG(セーフガード)の解除月(年度明けの4月)に分岐点価格が653円/kg(SG時)から元の524円(通常時)に戻ったため、普段の2~3倍の冷凍豚肉の急激な輸入が行われた結果、コンビの相方であるヒレ・ロースの投げ売りなどにより6月の国産豚肉の高値相場が抑えられたと考えられる。 本来のSGは先刻ご承知の如く生産者を保護する制度なのであるが、差額関税下でのSGでは、結果的に需給を乱し国産相場の足を引っ張っていたというのが現実の姿だったのである。

また、最近の輸入価格がまたぞろ分岐点価格(524円)に収斂して来ている様である。 平成26年には豚肉の輸入申告価格が550~600円/kg台にもなっていたが、その理由は米国豚がPEDで減少した事やアベノミクスの円安によってロース・バラ・肩ロースなど通常輸入で分岐点を越えるようになったことが、申告価格が上昇した主たる要因と考えられる。 加えて、JPPAが定期的に財務省関税局とミーティングを持ち、事後調査の充実を図ったのも大きな理由の一つであるのは間違いない。この期間には、事後調査が厳しく実施され、安易なコンビ輸入や関税法違反の差額関税無視輸入が明らかに減少したのである。

図2 豚肉輸入量と国産相場との関係
出典: 農畜産業振興機構のデータをもとに筆者が作成。

現在でも財務省関税局とJPPAの定期的なミーティングが行われているかどうか筆者には分からないが、筆者は豚肉相場が上がると生産者の追及の手がとかく緩みがちになるという事態を危惧しているのである。 これからは最近の円高と海外相場安によって、差額関税制度を無視したグレーゾーンの冷凍豚肉の輸入が増えるものと思われるが、引き続き厳しい追及が必要なのは言うまでもないと考える。

図3は、チルドポークの輸入量と国産枝肉相場の推移を示したグラフであるが、お分かりの通り徐々にチルドポークの輸入量が増加している事が見て取れる。 チルドポーク(冷蔵豚肉)は、トンカツや焼肉、中華などの外食チェーン向けや量販店でテーブルミートとして売られており、従来ロースやヒレの輸入が多かったが、近年はバラや肩ロースなどの需要も増加して来ている事が輸入チルドポークの増加につながっていると考えられる。 

また、海外のチルドポークには黒豚など品種にこだわりがある物や飼料やトレーサビリティなどを充実させ日本とほぼ同じ枝肉重量で出荷されているものもあり、品質が良い分価格的にも高く分岐点価格(524円/kg)を越えて4.3%低率関税で簡単に輸入できるなど、差額関税制度の効果がほとんど無い事なども併せ輸入量の増加の理由と考えられる。 また、輸入豚肉であってもバークシャー純血種であれば、“黒豚”の表示はわが国では法的に可能なのである。これらチルドポークに関しては、近年では月間の輸入量が3万トンを越えることも多くなり、国産豚肉との競争がまさに現実の物になりつつあると考える。

図3 チルドポーク輸入量と国産枝肉相場の推移

次に図4 「2009年(平成21年)1月を100とした場合の豚肉・コーンの価格変動率」を見ていただきたい。 以前もこのグラフを使って説明したが、豚肉相場は米国も我国も2014年(平成26年)は高騰した。 特に米国7月のCOVは非常に高い(CUT OUT VALUEカットアウトバリュー: COVとは、各部分肉の卸売価格などを1頭分の枝肉に再構成した卸売指標価格。) すなわち、米国の2014年7月の豚肉卸売り相場はPEDによってドルベースで2009年の2倍以上となる232.15%に上昇し、加えて円安の影響で円ベースに換算すると265.23%にも高騰している。 それに比べると日本の豚肉相場は昨年1月まで上昇と下降を繰り返しており、 ピークを付けた2014年6月の日本の豚肉相場と比較しても米国豚肉の値上りが際立っていた。

図5 2009年1月を100とした場合の豚肉・コーンの価格変動率
(エクセルファイル図4 2009年1月を100とした場合の豚肉・コーンの価格変動率)
出典: (独)農畜産業振興機構データをもとに筆者が作成

しかしながら、米国のカットアウトバリュー(COV)豚肉相場は、その後大きく下がり、26年12月末では7月と比較して約3割も下落している。(但し、円安のために円貨換算では、COVは約2割の下落となった。) これは米国での母豚の増加など、生産意欲の増大によって米国内での需給が緩み始めている事を示している。 加えて、飼料穀物の豊作や石油価格の下落によるバイオエタノール向けトウモロコシ需要の減少などが考えられ、そのため飼料穀物相場の低迷に伴い豚肉の国際相場も弱含みとなって来た。

 昨年(2015年)米国での豚肉生産は11.1百万トンと前年対比107.3%と大きく増加したが、その状態は本年も続いており、加えて円高により日本における輸入豚肉のコストは下げ傾向が続くと予想する。  「下がった相場は必ず上がるし、上がった相場は必ず下がる」 この2~3年の国産豚枝肉価格の高値安定に油断する事無く海外の動向に常に注意して、更に将来に向けていかなる事態にも慌てず対応できるよう足腰を鍛えて頂きたいと願っている次第である。

以上

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