主に食糧や輸入制度(豚肉の差額関税制度)の問題点などについて解説しています。

ブログ

トランプ大統領確定、さらに遠ざかるTPP 内外ともに課題山積の安倍政権


すでにご承知の通り去る11月8日のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ候補が僅差で米国の次期大統領に選出されたが、最終的に11月28日には米国全ての州の勝敗が確定し、選挙人538人中306人を獲得した。“ビックリポン!”的な勝利だとの感もあったものの同氏の勝利は確定し、現在トランプ人事が進行中である。なおウィスコンシン州など接戦州では票の再集計の動きもあるが、大勢は変わらないと思われる。

安倍政権の最大の看板政策であり、日本の将来に多大な影響を持つTPPの発効に関しては、かねてからトランプ氏は他国のみを利するとの理由でTPPからの撤退を強く主張していたため先行き全く困難となってしまった。これに追い打ちをかけるように共和党の議会指導部が11月9日にTPPの年内承認を見送る考えを表明したことで同協定の実現は全くの窮地に陥ってしまっている。上下両院で多数を占める共和党の意向は無視できないからである。選挙戦中は反トランプの旗を上げていた名だたる共和党の幹部連中の多くは新政権のポスト獲得を望んでいると聞く。

以前も述べたが、TPPが正式に発効するためには、GDPで全加盟国の85%と6か国以上の批准が必要とされることから、62%を占める米国と16%を占める日本の批准は絶対に不可欠である。従って、米国の撤退はTPPの不成立を意味し、TPPは発効も破棄もされないで漂流し続けることになるのだ。安倍首相のトランプ政権確定後の第一声は「米国抜きのTPPは意味が無い!」と悲痛さをにじませたものであった。

現在のところ参加各国の批准にむけての状況は、各国ともそれぞれ選挙が行われた事もあって遅々として進まず、大部分の国は日米の批准の様子見となっていた。11月末現在でTPP幹事国であるNZのみTPP関連法案を議会で可決し審議が終了しているが、順調に議会審議が進んでいるメキシコやシンガポールであっても、年内に手続きが終わるかどうか分からない状態である。また、本年6月の大統領選で自由貿易派が勝利したペルーでも7月に審議が始まったばかりと伝えられている。マレーシアは合意内容への不満からTPP関連の手続きがほとんど進んでいない状況であり、豪州やベトナム、チリ、ブルネイも批准は来年にずれ込むと思われる。このように11月末現在ではTPPを批准した国は一か国だけでまさに土台の固まっていない家屋同様の状況でありTPPが空中分解する恐れも無いとは言えない。

この様な状況の中で、日本がもしNZに続いてTPPを批准した場合には、米国抜きであったとしても交渉参加各国の政府に対してTPP後のEPA(経済連携)に向けた大きなアピールになると考えられる。 安倍内閣が掲げる成長戦略の柱の一つとして、またアジア太平洋地域において今後さらに強いリーダーシップを発揮したい安倍首相にとって、いずれにしても年内の我国の国会におけるTPP批准は非常に重要な政治課題であることは明らかである。 安倍政権は2018年までに自由貿易協定(FTA)締結国との貿易額が全体の70%になるよう締結交渉を進める目標を掲げており、その最も重要な柱がTPPなのである。

また、我国に続いてTPP参加各国が相次いで批准した場合には、TPP後の各国との新たなEPA(新TPPと称す)への強い後押しになることは間違いないと筆者は考えている。TPP交渉でこれまでに各国と合意した内容を無駄にすべきでは無いわけで、また米国に配慮せざるを得なかった条項を新たに参加各国に配慮した形に仕切り直して新TPPを立ち上げると言う事を考えても良いのではあるまいか。 いずれにしてもアジア太平洋における自由貿易圏を作る上でのキーであるTPPの灯火を消すことがあってはならない。

ところでもしTPPが不成立となった場合、業界関連で筆者が特に重要事項として注目しているのは、次の通りである。
1)豪州とEPAはすでに締結されているため、豪州は牛肉で米国をはじめ他国との比較で関税面において更に大きなアドバンテージを得る事の分析が必要である。
2)せっかく徐々にフェードアウトし消えゆくことになっていた不合理なザル法である豚肉の差額関税制度がそっくりそのまま残ってしまう事は非常に残念であり、何らかの措置が必要ではないか?
3)TPP対策で予定していた補助事業の予算の行方は?
4)TPP対策で国内法の更新を準備していたのが、どの様になるのか? 我国が批准した場合には国内法を変更するのか? それともTPPの成立が非常に困難な状態ではTPPに沿った国内法の更新は無くなるのか?
5)上述の新TPPがTPP参加各国の同意を得られるか?また、日本はどう動き、またリーダーシップをとれるのかどうか?

アメリカ大統領は3つの大きな権限“行政権”“軍の最高司令長官”そして“法案拒否権”をもつ強大な権力者である。従って仮にTPPが米国議会で、過半数で可決されても大統領の拒否権で議会に差し戻されることになるわけである。 そして議会での再可決には3分の2の賛成が必要となるため、トランプ政権以降は米国議会でTPPが批准される可能性はほとんど無くなってしまったのである。オバマ政権の高官も11月11日に“オバマ政権下でのTPP承認は極めて困難”との見方を示し安倍政権は一層苦境に立たされる事になった。安倍首相は“トランプ説得をあきらめない”と表明“しているが非常に厳しいものがある

トランプ次期大統領は選挙期間中、数々の問題発言やカラ手形を出してきた。例えばメキシコ国境に壁を作り、不法移民(1000万人と言われる)を退去させ、イスラム教徒を入国禁止にし、日米や米韓の安全保障条約を見直し場合によっては米軍を撤退させ、中国からの鉄鋼などの輸入関税を高くして阻止し、日本製自動車の輸入関税を米国産牛肉と同じ38.5%にするなど、保護主義とアメリカ第一主義を強く主張して来たように筆者には思えてならない。

しかしながら、これらを実施しようとすると議会の協力が絶対に必要であり、WTOの規定により関税を米国が独自に勝手に上げる事もできないため、選挙期間中に発言してきた事が全く出来なくなるとともに支持者からの落胆や反発などによりヘタをすると半年・1年でレームダック状態に陥ることも無きにしもあらずではないかと筆者は危惧している。

日本国内については、この様な厳しい条件下において、TPP承認関連法案が11月10日の衆院本会議で可決され、参院に送付、会期を延長した今国会で成立する見通しとなった。
管官房長官は11月10日の記者会見で、“オバマ大統領は今年中の議会通過に全力で取り組んでいる。それぞれの国が国内手続きを進めて行く事が極めて重要である”と述べたが、TPPが日本の通商政策の転換点となっているのは間違いない。

また、11月24日に我国の農業競争力を目的とした自民党の農業改革案が固まった。TPPが今後どのようなことになるかに関係なく、国内産業、特に農業分野の競争力強化は不可欠で待ったなしである。自民党の小泉進次郎農業部会長は11月10日の記者会見で「TPPの行方がどうなろうと農業でやらなければならないことは変わらない」と表明したが全く同感である。

トランプ次期大統領は選挙期間中の発言に関して、当確後少しずつ軌道修正をしては来ているが、このTPPが息を吹き返す可能性は目下ほぼゼロといえる。従ってアメリカがTPP撤退を正式に通知した後に、アメリカ抜きの新TPPに移行する可能性があると筆者は考えている。来年以降もし新TPPの動きが出て来た時には、その畜産物への影響について分析しレポートしたいと考えている。 激動の年明けになるだろうが、皆様方のますますのご健勝と業務盛大をお祈り申し上げる。

カテゴリー