主に食糧や輸入制度(豚肉の差額関税制度)の問題点などについて解説しています。

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トンネルのかなたにかすかに光が見え始めたか?TPP承認


TPPが昨年10月5日になんとか大筋合意に至って早くも1年以上が過ぎた。 大筋合意まではマスコミの報道も大きく取り上げ、テレビ・新聞・雑誌などで賛成反対の意見が連日出ていたが、大筋合意内容については既に皆さまご承知のとおりに豚肉を始めとする畜産物などについては当面は大した影響がないと思われ、多くの国民が安心したことによってニュースの価値が低下したため、最近では我国の国会論戦や11月8日が投票日のアメリカ大統領選挙からみでチラホラ報道される程度になってしまっている。

以前も述べたが、TPPが正式に発効するためには、GDPで全加盟国の85%と6か国以上の批准が必要とされ、62%を占める米国と16%を占める日本の批准は絶対に不可欠である。従って、我国にとって「日本が批准しないという理由によってTPPが発効しない」という外交上の失態は避けねばならないため、安倍政権は是が非でも今の国会でTPP批准の採決を勝ち取りたいとしているのである。

現在のところ参加各国の批准にむけての状況は、各国とも選挙が行われた事もあって遅々として進まず、大部分の国は日米の批准の様子見となっている。順調に議会審議が進んでいるメキシコやシンガポール、幹事国であるNZであっても、年内に手続きが終わるかどうか分からない状態であり、本年6月の大統領選で自由貿易派が勝利したペルーでも7月に審議が始まったばかりと伝えられている。マレーシアは合意内容への不満からTPP関連の手続きがほとんど進んでいない状況であり、豪州やベトナム、チリ、ブルネイも批准は来年にずれ込むと思われる。このように10月末現在ではTPPを批准した国は無い状況なのである。

したがって、日本がもし最初に批准した場合には、交渉参加各国の政府へのTPP批准に向けた後押しとなると見られており、アジア太平洋地域において強いリーダーシップを発揮したい安倍首相にとって11月中の我国の国会におけるTPP批准は非常に重要な政治課題であることは明らかである。また、我国に続いてTPP参加各国が相次いで批准した場合にはアメリカのTPP批准へのさらに大きな後押しになると筆者は考えている。

ところで、11月8日に行われる米国大統領選挙と議会選挙戦の結果が、本誌が発行される頃には既に決まっているはずだが、本稿執筆中の10月末現在では3回の公開討論会で優勢を保ったヒラリー・クリントンがドナルド・トランプを打ち破って米国の次期大統領になる可能性がかなり高いとの見方が大勢を占めていた。しかしながら、7月に一旦は調査終了としていたFBIによるクリントン候補に対する“メール事件”だったが突然の調査着手報道で、2人の差は急速に縮まり、トランプ側はここに来て息を吹き返した感じである。

以前も述べたが、両候補ともTPP反対の立場ではあるが、過去にTPPを支持してきたクリントンが反対の立場を取らざるを得なかったのは、民主党の大統領予備選挙で対立候補のサンダース陣営(TPP反対を鮮明にしていた)や大統領選挙でのトランプに対抗せざるを得なかったためであった。したがって、クリントンが大統領に選出されれば、TPPが批准される可能性はある。しかしながらTPPに対して完全に否定的なトランプが大統領になれば批准されるのはかなり難しい。

いずれにしてもTPPの批准は困難なのではないか?との見方は依然続いているが、最近になってオバマ政権下での批准の可能性が多少出て来ているのである。米国連邦議会の上下両院が外交通商条約を交渉・決定し批准する最終的な権限をもっている。いまのところ民主党も共和党も上下両院の幹部がTPP採決に反対の姿勢を示しているのだが、元々は自由貿易主義である共和党主流派(保守派)の議会幹部に変化の動きが出て来ているのである。

トランプ候補は、共和党主流の保守派幹部であるポール・ライアン下院議長、ジョン・マケイン、マルコ・ルビオ両上院議員の3人を「共和党の守旧派(エスタブリッシュメント)」と呼んで悪口雑言を浴びせてきた。その3氏が議会選挙予備選で、トランプが支持する新人の刺客候補者からの挑戦を受けたのだが、新人候補を全く受け付けずいずれも圧勝した。

この様なことから下院議長であるポール・ライアンなどトランプ陣営から挑戦を受けた共和党主流の幹部議員は相次いでトランプを支持しないと表明し始めている。 すなわち、大統領選と下院全議席と上院の3分の1議席の選挙期間中に大きな影響を与えてきた「トランプ現象」が内側の共和党内部から崩壊しはじめ終焉を迎えつつあり、トランプが終始唱えていた「TPP反対」が共和党の有権者の意思ではない事に議会関係者は気付きはじめたのである。

従って、オバマ政権のレームダック期間(本年11月~来年1月)を含めた採決に反対の姿勢を示していた共和党・民主党の上下両院議員も選挙後のレームダック期間における採決に向けての動きが出てくる可能性が高まったのではないかと筆者は考えている。いずれにしても選挙後の米国の新大統領や議会関係者の言動には我国の生産者としても関連業界としても十分に注意が必要であり、どちらになったとしても米国は必ず自国の利益を最優先にして来るのは明らかであるため、改めて更なる決意と前向きな努力が必要である事は言うまでも無い。

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